デジタルな君にアナログな刻を
午後6時 閉店
ロータリー広場に、大きなもみの木が出現した週の土曜日の午後のこと。

「年末に向けて、セールとかしないんですか?」

駅前商店街の年末商戦に向けての寄り合いから帰ってきた店長に訊いてみることにした。
時計人気が低迷しているとはいえ、クリスマスプレゼントに腕時計って、けっこう定番じゃない?

「ん~、特に考えていないなあ。去年もなにもしなかったし」

ツリーの飾り付けを手伝わされた筋肉痛がまだ消えないらしく、動きが少しぎこちない。平均年齢の高い商店街の皆さんの中では、ウチの店長はまだまだ若手なので、力仕事など事ある毎にこき使われているようだ。
カウンターの内側にある椅子に座ってストレッチをしながら答える様子は、すっかりおじいちゃんっぽいんですけどね。

「じゃあせめて、ウチの店も飾り付けくらいはしましょうよ」

クリスマスセールとは関係なさそうなお隣の不動産屋さんだって、ツリーを飾ったりとディスプレイをしている。

「う~ん、そうだねえ。円ちゃん、テキトーにやってみてよ」

思いっきり伸びをしてから「さて」と取りかかった仕事は、店長の留守中にお預かりした腕時計の電池交換。このビルの上の賃貸に住んでいる、幼稚園生の男の子のものだ。初めて買ってもらったアニメキャラクターの腕時計は、幼稚園にして行くとだだをこねるほどのお気に入りで、針が止まってしまった時には大泣きしたらしい。

「その子って、3時頃には幼稚園から帰ってくるんだっけ?」

「間に合いそうですか?」

今は14時17分。幼稚園の送迎のバスは、ロータリーまで連れてきてくれると聞いたので、その時までにはお返ししたい。

「……たぶん大丈夫、だと思う」

心許ない返事をしてから、作業台の明かりを点けたり道具を用意したりと準備を始める。そうしたら、わたしはもう、少し離れたところから黙って見守るだけ。間近で見たいとお願いしたこともあるけれど、頑なに断られていた。

鶴の機織りを盗み見するおばあさんのように、商品を拭いているふりをしてこっそりと様子を窺う。
ぎこちない手つきは相変わらずだけど、最近はそこに彼なりの慎重さや丁寧さが込められていることに気づいていた。その証拠に、わたしが知る限りでこの店で行った電池交換に関するトラブルは聞いたことがない。
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