肉食系御曹司の餌食になりました
「ちょっと、お手洗いに」
仲よさそうなふたりを前にしていると、ふたりきりにしてあげたい気持ちになって、一旦席を外してトイレに向かう。
今日はとことん飲んで食べて、智恵のノロケ話を聞くつもりだったけど、後三十分ほどしたら帰ろうか。お邪魔虫にはなりたくないし。
親友が幸せそうで、私も気分がいい。
トイレに繋がるレジ横の細い通路に足を踏み入れ、思わずフフッと独り笑いをしていたら、後ろに店のドアが開く音とウェイターの声がした。
「いらっしゃいませ、おひとり様でしょうか?」
へぇ、この店にひとりで来る人もいるんだ。
私は無理かな。ランチならいいとしても、夜はグループやカップル客ばかりで、寂しさを感じてしまいそう。
そんな感想を抱きつつ、通路の奥のドアノブに手をかける。
すると、「連れ合いが先に来店しているのですが」という、ひとり客の声が聞こえ、ハッとした。
今の声は、支社長!?
勢いよく振り向くと、通路の前をひとり客の靴の踵が消えていくところで、誰なのかは分からなかった。
支社長もこの店で誰かと食事を?
いや、まさか……そんな偶然があるはずない。
声が似ているだけの別人だと思い直すと、跳ね上がった鼓動も静まっていき、確かめることはせずにそのままトイレに入る。
こんな勘違いをするなんて、最近の私はどうかしている。
支社長と濃密に関わりすぎているせいだろうか?と、自分に呆れて溜息をついていた。