肉食系御曹司の餌食になりました
用を足して、ナチュラルピンクの薄い口紅を塗り直しトイレを出ると、足元がふらついた。
着いてすぐに支社長の話をしながらワインをグイグイ飲んでしまったのが、少々体に効いているみたい。
ここからはセーブしないとと思いつつボックス席に戻ると、驚いてバッグを落としそうになる。
私の場所に支社長が座っているからだ。
酔いが幻覚を見せているのではなく本物で、どうして?と聞く前に、彼が先に口を開いた。
「亜弓さん、遅くなって申し訳ありません」
まるで約束をしていたかのような口振りに、どういうことかと問いただそうとしたら、今度は智恵に遮られる。
「も〜亜弓、支社長が来るって先に教えてよ。
すごいびっくりしたじゃない」
ふたりとも、なにを言ってるの?
サッパリ状況が分からないんだけど……。
「どうぞ」と言われて隣に腰を下ろし、飲み過ぎて頭がおかしくなったのかと自分を心配していたら、彼が一見、紳士的な笑みを浮かべて私に言った。
「ブラカリ・ロッソという店名を検索したら、たくさんの口コミが載っていました。評判のいいお店のようですね」
なるほど……。
彼の口から店名と検索という言葉が出たことで、自分の頭がおかしいのではないことを理解した。
今朝、給湯室で智恵と話していたときに、私達は店名を何度か口にした。
支社長に立ち聞きしていた様子があったし、店を調べて勝手に合流したに違いない。呼んでないのに誘われた振りをして。