肉食系御曹司の餌食になりました
私が呼んだと思い込んでいる智恵は、テンションが三割り増しで上がっていて、種田さんは突然現れた彼女の上司に姿勢を正している。
驚きから立ち直った私は『ヤラレタ……』と心の中で溜息をつき、渋々、彼とグラスを合わせて乾杯した。
ここで約束してないと言えば、場の空気がおかしくなるのでできない。
なにも言えない代わりに棘のある視線を向けてみたが、ニッコリ笑う彼に効果はなく、「色々と追加注文したので、亜弓さんもたくさん食べて下さい」と言われただけだった。
立ち聞きしていたくせに、智恵の婚約を初めて知ったような顔をして、「それはおめでとうございます」と、支社長はふたりを祝福する。
それほどの接点のない智恵について上手に褒め言葉を並べ、そのせいで彼主体のいい雰囲気が作り上げられていった。
前々から感じていたが、支社長は言葉巧みな人で、自分のペースに持ち込み、自分の望む方向へと会話を導く技術を持っている。
かなり値段のはる赤ワインをボトル注文した支社長は、種田さんのグラスにそれを注ぎ、追加の大皿の肉料理をみんなの皿に取り分け、会話を導きながら人当たりのよい笑顔を振りまく。
すっかりいい気分にさせられた種田さんは、初めの緊張感を忘れたように、支社長に絡み始めた。
「そうなんですよ。智恵は美人でオシャレで気が利いて、健気なところもあるし最高なんです。智恵の長所をちゃんと分かってくれる人が上司でよかったな〜。
でも麻宮さん、手を出さないで下さいよ? 俺のものですから」