肉食系御曹司の餌食になりました
カウンター席で私の歌声に耳を澄ませながら、時折マスターと言葉を交わし、ブランデーグラスを揺する彼。
夕食は食べただろうか?
今は若いからいいけど、不規則で偏った食生活を続ければ、後々体を壊すかもしれないと心配になる。
もし私が彼の恋人なら、バランスのよい食事を一緒に食べてあげたい。
料理の腕にはあまり自信がないけど、恋人のためなら喜んで勉強を……と、私は一体なにを考えているのだろう。
気持ちが歌から離れそうになり、カウンター席の彼から視線を逸らした。
ジャストフレンズ、ただの友達。
支社長と私の関係はただの上司と部下で、店では客とシンガーだ。
それ以上を求めると、後々辛い思いをするのは自分なのだから、彼の遊びに乗ってはいけないと、ここ最近は頻繁に自分に言い聞かせていた。
歌い終えて、たくさんの拍手をもらい、楽屋へ引き上げる。
仲間達と今日のステージについて少し話した後は、部屋の隅にある簡易更衣室へ向かう。
ステージ衣装から着替えるのは私服で、地味色オフィススーツではない。
支社長が来店する以前は地味な亜弓の格好に戻って帰路についていたけれど、今はわざわざAnneに似合いそうな派手目の私服を買って持ってきて、それに着替えて帰るようにしている。身バレを防ぐために。
ウィッグも外さずメイクもそのままで、着替えだけをして更衣室を出ると、ソファーにくつろいでいるコントラバスのジョーさんが、「最近、地味っ子スタイルやめたの?」と私に聞く。