肉食系御曹司の餌食になりました
すると予想通りというべきか、「アン、こっちおいで」とマスターに呼ばれる。
ステージの後、高確率で支社長の隣で飲む羽目になるのは、マスターがこうやって呼ぶせいだ。
用事があるからと前以て伝えておけば、座らずに帰れるけど、その手を毎回使うと嘘臭いし、マスターに気に入られている支社長をあからさまに避けるわけにいかない。
渋々隣の椅子に座ると、私の好きなマタドールというカクテルが出てくる。
聞かなくても支社長の奢りだと分かるので、「いつもありがとうございます」とお礼を言って、彼のブランデーグラスと合わせた。
「今日も素敵な歌声でした。私にはあなたの声が合うようです。とても心地いい」
支社長は紳士的な微笑みを浮かべて褒めてくれて、それからひとつ文句を付け足した。
「私が贈ったピアスはお気に召しませんでしたか? あまり付けていただけないようですが」
マスターの誕生日会の日、彼は大振りなアメジストのピアスをプレゼントしてくれた。
あれから二度ステージで付けたけど、思い直してそれ以降、付けるのをやめている。
その理由は彼を喜ばせないためと、私の心を揺らさないためだ。
そんな説明はできないので、カクテルをひと口飲んでから、「そうですか?」ととぼけて見せた。
「大切に使わせてもらってますよ。今日はワインレッドのドレスだったから、紫色と合わないと思って他のアクセサリーにしただけです」