肉食系御曹司の餌食になりました
慌てて「どのような変更ですか?」と聞いても支社長は詳細までは語らずに、「亜弓さんの本日のご予定は?」と聞いてきた。
あなたと夕方からデートですとは言えないので、「特にありません。家でゆっくり過ごす予定です」と答える。
『よかった。私は今、社におりまして、夕方までしか時間が取れないため対応に追われています。ご予定がないなら、休日出勤をお願いします』
「え、それは……」
『なにか不都合でも?
今日は予定がないんですよね?』
焦りは仕事に関することから、別の方向へとシフトする。
どうやら彼は仕事上の緊急事態が発生しても、Anneとのデートにはしっかり行くつもりらしい。
もしやそのために、終わらない仕事を私に押し付けるつもりなのか?
そうすると私だけが時間通りに待ち合わせ場所に行けず、その結果、マスターから私の連絡先を聞き出されて正体がバレてしまう。
背中に冷や汗が流れるのを感じながら、答えに困る私。
するとスマホの向こうになぜかクスリと笑う声がして、その後に明るい口調で言われた。
『ふたりで対応すれば、恐らく二時間もかからないでしょう。十五時半には終わりますよ』
十五時半……それなら、なんとか間に合いそう。
待ち合わせ場所までタクシーで行き、小丸百貨店のトイレでAnneに変身すればきっと大丈夫。
そう判断した後は「分かりました。すぐに出社します」と返答し、通話を切る。
急いで地味色オフィススーツに着替えて、薄いメイクをしたら、Anne変身セットを紙袋に突っ込んで、慌ただしく家を出た。