肉食系御曹司の餌食になりました

地下鉄に乗って大通駅で降り、そこから小走りで会社にたどり着くと、時刻は十三時四十分だった。

人気のない四階のフロアを奥へと進み、支社長室をノックする。

「どうぞ」という声と共に、電子錠が解錠される音がした。


「失礼します」


ドアを開けて中に入ると、彼はいつもの凛々しいスーツ姿で、執務机に向かって仕事中。

その視線がパソコンの画面から私に向くと、ニッコリと笑いながら「随分と大荷物ですね」と指摘してきた。

通勤用の黒いショルダーバッグの他に、コートからブーツまでAnne変身セットの入った大きな紙袋を下げている私。

たしかに不思議に思われても仕方なく、事業部の自分のデスクに置いてから、ここに来るべきだったと後悔した。


「帰りにクリーニング屋に寄ろうと思ってまして……」


焦りを顔に出さないように気をつけて、咄嗟に嘘をつく。

内心ビクビクしていたが、支社長はそれ以上のツッコミは入れずに、急ぎの仕事について話を移した。


「施工業者から申し入れのあった変更点ですがーー」


彼の仕事に関する説明は、いつも丁寧で分かりやすい。

しかし私の首がゆっくりと横に傾いたのは、それが休日出勤してまで急いでやらなければならない内容じゃなかったからだ。

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