肉食系御曹司の餌食になりました
慣れているので十分ほどでフルメイクが完成し、最後にミルクティー色のウィッグを被れば、私はもう亜弓ではなくAnneになった。
鏡に角度を変えて自分の姿を映し、細部を点検する。
どこからどう見ても、地味な私の影は残されていない。
これで完璧……と思ったが、支社長にもらったピアスを付けることを忘れていた。
ポーチから取り出して両耳に付けると、雫型の大振りなアメジストが輝いて、より一層華やかな印象にしてくれた。
仕事用の腕時計は外したので、スマホで時刻を確認すると約束の五分前。ギリギリセーフといったところか。
急いでトイレを出た後は一階に降りて、入口近くのコインロッカーに荷物を押し込む。
これもAnne用に買ったハンドバッグだけを手に下りのエスカレーターに乗って小丸百貨店の地下入口に着くと、支社長が会社で見たときと同じ格好で、壁に背を預けて立っているのが見えた。
無言で彼の前に立つ私に、紳士的な微笑みが向けられた。
「時間通りですね。来てくれると思っていましたが、遅れることを予想していたので少々驚きました」
そう言われる理由はなんだろう?と首を傾げる。
Anneの姿で彼と待ち合わせるのは初めてのことなのに、時間にルーズな印象を持たれていたのだろうか?
それとも他に、遅れて来そうな理由が?
彼の心は読めないが取り敢えず、「結構早くに着いてましたよ。女性服売り場を見てました」と、作り笑顔で嘘をついておいた。