肉食系御曹司の餌食になりました
知ってるよ、あなたの不誠実さを。
私にキスして夢まで語っておきながら、こうしてAnneにも手を出す肉食獣だということを。
この分だと本当にうちの社の若い女子社員を総なめにしていたりして。親友の智恵だけはその中に入っていないと信じているけれど。
反論は口にできないので、作り笑顔で切り返す。
「麻宮さんのことはなにも知りません。誠実だと言うなら、そのイメージを崩さないようお願いします。私はジャズシンガーで、あなたはお客様。それ以外の関係を築こうとしないで下さいね」
「手厳しいですね」と言いつつも、彼は楽しそうに笑っている。
私の精一杯の牽制もどこまで届いているのか怪しいものだ。
混み合うエレベーターに乗り込み、五階へ。
私達しか降りなかったこのフロアは女性服売り場で、入っているテナントは上品で、マネキンが着ている服の全てが高そうに見える。
小丸百貨店自体、他より値段が高めの印象なので私はあまり利用しないし、このフロアには足を踏み入れたこともなかった。
支社長は下調べでもしていたのか、迷うことなく私を奥へと誘導し、『マニョリア・ロマンジュ』と書かれたテナントの前で足を止めた。
どこかで聞いた覚えのある名前だと思ったら、雪とガラスのマリアージュ企画でコラボしているブライダル会社の『ブライダルハウス・ロマンジュ』と名前の一部が被っている。
心の中でそれに気づいたら、彼が説明を加えた。
「私が携わっている仕事の関係企業の姉妹店です。男の私はドレスをオーダーできる店を知りません。それで仕事でお世話になっている花村さんという女性に紹介していただきました」