肉食系御曹司の餌食になりました

私が自分で買って持っているステージ衣装は、高くても五万円。

オーダーメイドの物は一着もなく、全てがブティックに並んでいる既製品で、ときにはネット通販で一万円以下で購入する場合もある。

ただのシンガーと客の関係を続けたいのに、こんな高額なプレゼントは……。

焦る私の横では支社長が涼しげな顔をして、カタログをめくっている。


「アメジストのピアスには黒のドレスが合うと思います。生地はシルクとレースで、デザインは……迷いますね。アンはどれが好きですか?」


そのとき店の奥から電話の音がして、「すみません。ちょっと失礼しますね」と女性店員が席を外した。


「支、いえ、麻宮さん、ここを出ましょう!
幾らなんでも高すぎです。フルオーダーじゃなく既製品で十分ですから」


つまり、今のうちに逃げようと提案して立ち上がったのだが、彼はクスリと笑うだけで動こうとしない。


「私の財布の心配ならご無用です。それほど高額だと思いませんし、あなたの歌声にはそれだけかける価値があります」

「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、やっぱりーー」

「アン、落ち着いて。
この店で購入しないと、紹介者の花村さんの顔を潰すことになりますよ。それでもいいんですか?」


それは困る。雪とガラスのマリアージュ企画が無事に終わらないうちは、良好な関係を保たないと。

「そうですね」と、仕方なく椅子に座り直した私を見て、彼はまた含みのある笑い方をする。


「時々ほつれが見えるところも、可愛らしいです」

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