肉食系御曹司の餌食になりました
きっと『この女はなにが不満なのだろう?』と思われていそう。
こんなにいい男に高級店に連れてこられて面白くない顔をしているのだから、悪く思われても仕方ない。
一方で支社長だけは動じずに「それでは、私と同じ季節のコースメニューにしましょう」と、全六品のコースと乾杯用のシャンパンを注文していた。
ほどなくして白いテーブルクロスの上には前菜のプレートが置かれた。
「ボタン海老とセップ茸のラビオリ、キノコソースでございます」
見た目に美しく美味しそうな香りもするけれど、上手く気持ちを立て直すことができない私。
「私達の初デートに乾杯」と彼がシャンパングラスを持ち上げても、私はグラスにも触れずに溜息交じりにお願いした。
「麻宮さん、もう一度言いますけど、これっきりにして下さいね」
「もちろん約束は守ります。デートはこれが最初で最後。アンとのデートは」
『アンとのデート』という部分を強調する彼に、まさかという思いが再燃しかけるが、敢えてそれを無視して料理を口に運ぶ。
彼はひとりだけ楽しそうな顔をして、ナイフとフォークを美しく操りながら色々と話しかけてきた。
「私はレナのA love that will last が好きで、よくCDで聴いています。いつかあなたの声で聴いてみたいと思うのですが、リクエストしてもいいでしょうか?」
「いいですよ。やれるかやれないかは、そのときの演奏者次第ですけど、次のステージで提案してみます」