肉食系御曹司の餌食になりました
主にジャズとアルフォルトについて話しながら、ゆっくりと時は流れ、空席だった他のテーブルも予約客で埋まり出す。
前菜二品に続いて運ばれてきたのは、魚料理。
『サワラと帆立のパートブリック包み焼きシェリービネガーソース』という長い名前のこの料理は、ふっくらとしたサワラの身が酸味の効いたソースとよく合い、私好みの味がした。
美味しいと思って食べる私に対して支社長は、目の前のひと皿に感動はないようで、「この後はやっと肉料理ですね」と、次を期待している。
そう言われて、思わず笑いそうになる。
Anneの前だからと気取ってコース料理を選んでも、やっぱり肉だけを食べたいんじゃない。
格好つけてないで、いつものように肉ばかり頼めばいいでしょうと、口に出さずに心でツッコミを入れていた。
すると「やっと楽しそうな顔を見せてくれましたね」と言われ、慌てて表情筋を引き締める。
「そんなに楽しくもありません」と攻撃してもダメージを与えられず、クスリと大人の笑い方をされただけだった。
その直後に彼はなにかに気づいた顔をして、スーツの内ポケットに手を入れる。
取り出したのはスマホで、「失礼、仕事の電話が入りまして」と席を立つ。
着信音もバイブ音も聞こえなかったが彼はスマホを耳に当てながら店外に出て行き、スーツの背中が見えなくなった。