肉食系御曹司の餌食になりました
なにをそんなに急ぐ必要があるのかと、突っ込まれることはなかった。
内ポケットから彼が取り出したのは財布ではなく、うちの社の封筒で、取引先の宛名が印字されていた。
それを私に差し出し、彼はニッコリと笑う。
「これをポストに投函して下さい」
ポストに投函って……。
驚いた後は、震える声で問いかける。
「そんなことのために、私は呼び出されたんですか?」
「そうですが、なにかおかしな点がありますか?」
シレッと宣う支社長に、開いた口が塞がらない。
おかしい点ばかりで、『そんなのあなたが帰り際にポストに入れたらいいでしょう!』と怒ることも出来ずにいた。
支社長は一体、どうしてしまったのだろう?
Anneとのデートに舞い上がって、頭の回線が数本切れたのか。
いや、まさかこれは……。
また"まさか"な予感が込み上げて、慌ててそれについて考えることをやめ、封筒を手に取る。
「分かりました。これをポストに入れておきます。それでは私は社に戻って仕事の続きをしますので」
早口で言って彼に背を向けると、「お疲れ様でした」と声をかけられた。
その声に笑いを堪えているような雰囲気があることにも気づいていたが、まさかの方向へ意識が向かいそうなので、考えることを拒否して階段へと走り出した。