肉食系御曹司の餌食になりました

それから数分後、Anneの姿をした私は、またフランス料理店に戻ってきた。

タワーホテルのロビーのトイレで着替え、クロークに荷物を預けたから移動距離は短く、小丸百貨店まで戻ったときよりは楽だった。

とはいえ、焦ったり走ったり変身したりを繰り返したため、疲労は隠せない。

支社長はひとり優雅に赤ワインを楽しんでいて、着席した私に一見、紳士的な笑顔を向けてきた。


「アン、お帰りなさい。
ストッキングはどちらで購入したんですか?」

「その辺です。時間が掛かってすみませんでした」

「いえ、問題ありません。私の分の肉料理は食べてしまいましたが、あなたの分は待ってもらっています。出来立ての温かいものの方が美味しいですから」


魚料理を食べた後に席を立ったので、この後は肉料理。

すぐに目の前に口直しの小さなシャーベットが出され、それを食べ終えるのを待っていたかのように、フォアグラと牛フィレ肉のグリエが運ばれてきた。

美味しそうだけど疲れているせいか食欲が湧かず、ひと口食べてはナイフとフォークを置いて溜息をついていた。


「どうしました? 魚料理は美味しそうに食べていたのに、急にナイフが動かなくなりましたね。お口に合いませんか?」

「美味しいですよ。でもなぜか進まないんです。どうしてでしょうね」

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