肉食系御曹司の餌食になりました
質問に答えながら、睨んでしまう。
支社長が訳のわからない用事で呼び出したりしなければ、この肉料理も美味しく食べられたはずなのに。
いくら睨んでも彼は楽しそうな顔を崩さないので、諦めて視線を料理に戻し、止めていた手を動かす。
彼と私のふたりして途中で席を立つというマナー違反をしているので、残すのがお店の人に申し訳ない気持ちになり、無理して完食した。
次はデザート。
チョコレートケーキとベリーソースの掛けられたバニラアイスにフルーツが添えられ、芸術的に盛り付けられたひと皿が目の前に出された。
それを見て、いくらか気持ちを立て直す。
綺麗で美味しそうというよりも、これを食べ終えたらデートはおしまいという安堵の気持ちでいた。
突然の休日出社の連絡から始まり、支社長室でキスされた二時間後には、大事な約束があるからと放置された。
Anneの姿でデート中なのに呼び出されて、何度も着替えする羽目になった。
今日は心身共に疲れたから、もう帰りたい。
家に帰ってゆっくりと湯船に浸かり、焦りも怒りも疲労も、全てをお湯に流してしまいたい。
デザートを食べながらの会話は、マスターのこと。
マスターのマニアックなジャズ知識に話を合わせられるように、かなり調べたという暴露話をされた。
それとプレミアレコードを、計三枚もプレゼントしているということも。
なぜそんな話を私にするのだろう?と思っていた。
Anneとデートするため、マスターを味方につけるという腹黒さを暴露することに、一体どんな利点があるというのか。
「したたかですね」と嫌味な感想を言っても、「私を理解して下さって嬉しいです」と言われただけで、その笑顔を最後まで崩すことができなかった。