狼少年、拾いました。
 「なにが?」

 何に対して謝ったのか大体検討はついていたが、こんな時どんな言葉を返すのが適切なのか、人と接する経験値がこれっぽっちもないミェルナには分からなかった。

 なのでとりあえずとっさに出てきたものを口にすると、レスクは押し出すような口調で答えた。

 「……結構キツく言っちまって。」

 「いいのよ、気にしてないわ。」

 ほんとは寝付けないくらい気にしてたけどね、と正直なところ思ったが、なんとなくこう言ったほうがいい気がして、ミェルナはぽつんと呟いた。

 「それに、肩貸してもらっちまって。」

 「平気よ、これくらい。」

 わだかまりを抱えたまま何も言わずに、緑の間を進んでいた時も気まずかったはずなのに、そのわだかまりが消えたはずの今の方が、なんだか居心地の悪い感じがするのはなぜだろう。

 怪我をしているレスクの腕を首に回して、なんとか歩いているこの状況のせいだけではない。

 饒舌な人だと思っていたレスクも、黙っていた。

(何か話した方がいいのかしら。)

頭の中でまさぐるように話題を探した。

 「……あの、カゲヌノは……?」

 細い針の小さな穴にやっと糸が通ったような達成感。

 「もう倒しちまった。」

 「そっか。よかった。……二人目が追ってきたりしないかしら。」

 「たぶん、しばらくは大丈夫だ。」

 「そう。」

 「……。」

 「……。」

 再び静寂が訪れた。

 「あの人、村の人に話すかしら。」

 森の中で傷だらけの異国の者に出会ったとプベルトが話せば、村人たちは山狩りでもして血眼で探し出しそうだ。

 「平気だろ、多分。何であんな森の奥にいたのか、説明しなきゃいけなくなるからな。」

 「そうね……。」

 「おう。」

 「……。」

 「……。」

 また沈黙が二人を包んだ。

(何か、話題を.....いや、怪我もしてることだし、黙った方がいいのかしら。でも話せないほどでもないし.....。)

迷いだしたミェルナだったが、それは杞憂に終わった。

 「全く本当に馬鹿だな、お前は。」

 口を開いたのはレスクでも、ミェルナでもなかった。
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