狼少年、拾いました。
 「…で、結局その街には居られなくなって次さ。海沿いをずーっと歩いて、やっと着いたのが__。」

 「海!海岸を歩いたの?」

レスクにとっては何気ない一言だったが、ミェルナは飛び出すような勢いで身を乗り出した。

 以前本で読んで知った海は、興味を大きく引いた。

 遠くからでも聴こえる打ち寄せる波の音、果てしなく続く青い青い水面、きらきらと弾かれる太陽の光……文字の並びが描いた頭の中の景色を、どうしても自分の目で見てみたかったのだ。 

 レスクはミェルナの食いつきっぷりが嬉しかったようで、その様子や近くの町の人々の暮らしなどを、出来るかぎり詳しく話してくれた。

 「いいなぁ、海。わたしも見てみたい。」

 思わずそうこぼすと、レスクは白くて尖った歯をにかっと見せた。

 「好きで流れ者になったわけじゃねぇけど、あんな綺麗な景色を見るとそれもまぁ悪くないなって思うぜ。」


 毎晩、壕と家を往復して重くなった足を引きずるようにして寝床に入る。

 だが、薬草のぶら下がった低い天井を見上げながらその日のことを反芻しているうちに眠りに落ちている日々は、なぜだか苦痛ではなかった。



 小屋の裏手で洗濯物をすべて干し終わり、うーんとミェルナは腰をのばした。
< 87 / 114 >

この作品をシェア

pagetop