次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 そして、連れてこられた先は、と言うと……。

「無理、やっぱり無理」

「無理なわけないだろ。いいから言われた通りにしろ」

 この状況で必死の抵抗をしても、無駄だと分かっていたが、それでもいざ、その場面になると、どうしても緊張してしまう。

「だって怖い」

「怖くない。そんなに力を入れてたら、入るものも入らないだろ」

「だって絶対に、痛いよ」

「痛くないから、ちょっと力を抜け」

 私たちのやりとりを、さっきから微妙な顔でスタッフが見守っている。直人に連れてこられたのは、眼科を併設しているコンタクトレンズ店だ。

 なにをどうして、ここに連れてこられたのかは謎だが、私もコンタクトに興味がなかったわけでもない。ただ、なかなかコンタクトにしてみよう! という機会がなかっただけで、私にとっては清水の舞台から飛び降りるくらいの大事なのだ。おかげで、嫌ではなかったが、だからといって、ここまで強引なのも、どうだろう。

 視力を測って、医師に診てもらい、いざコンタクトを試す場面になって、さっきからこの押し問答だ。とにかく、自分で入れて、はずせないことには帰してもらえない。

 スタッフが親切にアドバイスをしてくれるが、直人はスパルタだった。大体、百歩譲って、つけられたとしても、上手くはずせる自信が私にはない。(正確には違うが)目に指を入れるなんて、恐ろしい。

 しかし、そんなことを言っても埒が明かないので、私は文字通り目一杯、目を見開いて、人生初のコンタクトに挑戦してみる。
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