次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「色々と。時代劇を見て、切られた人は本当に死んでるって思ってたから、ばあさんが死ぬシーンを見て本気で大泣きしたことや、偶然見たゾンビ映画が強烈で、一人で寝られなくなって一緒に寝てくれ、って懇願されたこととか」

「あの子、そんなことまで話したの!?」

 まさかそんな細かいエピソードまで話しているとは思ってもみなかったので、私は赤面するしかなかった。直人は思い出したように笑っているので、尚更だ。

「できれば、全部忘れて」

「どうして? 羨ましいよ、俺にはそんな子どもの頃の思い出はないから」

 何気なく言った直人の言葉に私はとんでもない失態をおかした気分になった。そして情けないことに、こういうときなんて声をかければいいのか、映画の台詞なら沢山出てくるのに、直人に向けての言葉はなかなか浮かんでこない。

「寝るか、明日もあるし」

 空気を変えるかのように直人に告げられ、私は軽く頷くしかできなかった。直人がゆっくりと立ち上がるので私もそれに倣う。

 明日は久々に病院に顔を出す予定だ。改めて、結婚する旨を社長に伝えるために。

 待たせていたのが急に申し訳なくなって、後ろ髪を引かれながらも、さっさと部屋に戻ろうとしたそのとき、直人から声がかかった。

「もう一人で寝られるのか?」

「寝られるよ!」

 口の端を上げて、からかうように微笑む直人に、私は強めの声で答えた。子どもの頃は怖がりなところもあったが、今では慣れたのもあって、ホラーもスプラッタ系もわりと平気である。
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