次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「そうか、それは残念だな」

 冗談とも本気とも判断できない直人の口調に、私の心はざわめいた。その間に、素早く唇が重ねられる。

「おやすみ」

 そう言って背を向けた直人のシャツの裾を私はほぼ無意識に掴んでいた。

「どうした?」

 改めて、直人が不思議そうにこちら向き直ってくれたので、躊躇いつつも口を開く。

「一人でも寝られるけど、直人が一緒に寝てほしいって言うなら……」

 ここで、なんて続けていいのか、言葉に詰まってしまった。照れ隠しとはいえ、随分と上から目線の物言いだったことを、口にしてから後悔する。

 もう少し可愛い言い方はないものか。離れるのが名残惜しい気持ちを伝えたいだけなのに。なんせ経験がなさすぎて、こんなときに、なんて言うのが正解なのか分からない。

「あ、でも、直人は疲れ……」

 肝心なことを思いだし、慌てて発言を取り消そうとしたところで、真正面から抱きしめられた。お互いにパジャマだから、いつもより体温も肌の感触もリアルに伝わる。

「それなら遠慮なく」

 耳元で低く囁かれた次の瞬間、突然の浮遊感に頭も体も揺れた。直人が、まるで子どもでも抱き上げるかのように私を持ち上げたのだ。

「攫わせてもらう」

「ちょっと」

 高いところから見下ろす形になり悪戯っ子のような笑みを浮かべた直人と視線が交わる。こんなことされるのは、子どものとき以来で、それこそいい大人の自分がされていることを思えば、恥ずかしさで勝手に胸が苦しくなった。
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