次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 濡れた唇が触れ合うたびに熱くて苦しくなる。キスの合間に直人と目が合って、私はつい伏し目がちになった。

 そのせいなのかは謎だが、彼がそっと私から離れた。離れた、というほどの距離でもない。それでも、密着していた部分に流れる空気を感じて、それがすごく残念で、がっかりしていて、そんな自分にやっぱり動揺した。

「晶子」

 名前を呼ばれて、私はどう反応していいのか迷った。心臓が激しく脈打っていて、ベッドに自分の頬を埋めて顔を隠してしまいたくなる。

 自分の気持ちを上手く言葉にできずにいると、直人が優しく髪を撫でてくれた。無造作に落ちる髪を耳にかけられて、彼の指が直接、肌に触れたことで私の心臓の音はさらに煩くなる。

 もう寝よう、って言わなければ。直人は疲れていて、今日は色々なことがありすぎた。でも自分からはどうしても言えなくて、彼がそんな風に切り出してくれるのを待っている。

 自分でもずるいとは思うけど、ここで終わらせて欲しくないのに、かと言って続けて欲しい、なんて言う度胸もない。

 直人は相変わらず私に触れたままでなにも言わない。それだけのことに胸が苦しい。直人の手はこんなに熱かっただろうか。 

『無理させるのは本意じゃないんだ』

 ふと先ほどの直人の言葉が頭を過ぎった。私は、彼を不安にさせてしまっているんだろうか。この状況でさえも。

「私、無理してないよ」

 やっと出せた声は、どこかぎこちなく掠れていた。突然の言葉に、触れていた直人の手が止まる。お願い、やめないで。反射的に浮かんだ言葉を、私は一度、飲み込んだ。
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