次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「もしも、もっとして欲しいって言ったら……困る?」

 さすがに思うのと声に出すのとでは違う。最後は消え入りそうで、ふにゃふにゃだった。どう思われただろうか。わざとらしくベッドに顔を埋めて、緊張してつい自分の胸の辺りでパジャマを握りしめた。

「困る」

 それは前触れもなく、はっきりと耳に届いて私の肩を震わせた。

「もっとしてたら、歯止めがきかなくなる」

 けれど、続けられた言葉に私は反射的に顔を上げた。

「え?」

 なんとも間抜けな反応しかできずに直人を見ると、すぐさま唇が重ねられる。そのまま抱きしめられるように体を密着させられると、私はいつの間にか、直人の下に滑り込ませられてベッドに背中を預けていた。

 何度も角度を変えて、口づけられ自分から唇の力を緩めると、キスは深いものに移行される。でも嫌じゃない。むしろ、もっとして欲しい自分の気持ちに困惑してしまう。

 あっさりと舌を絡めとられ、直人の思うままに与えられる刺激に、体が勝手に反応していく。応え方は分からなくて、ついていくのが精一杯だった。

 心臓が壊れそうなくらい激しく打ちつけていて、頭もぼーっとしていく。それでも止めて欲しくない気持ちから私は直人の背中に腕を回した。

 直人の手は、キスをしながら、私の髪や頬に優しく触れて、その手がまるで大事なものを扱うみたいだったから、切なくなる。こんなふうに触れられるのははじめてだ。
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