次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「迎えに来てくれてありがとう」

 助手席に乗り込み、開口一番にお礼を告げた。航平はべつに、とだけ告げてエンジンをかける。私はくらくらする頭を後ろのシートにくっつけ、マンションの場所を告げてから、大きく息を吐いた。

「俺じゃなくて、婚約者に迎えに来てもらえよ。相手も相当、忙しいとは聞いたけど」

 従弟である彼は叔母からある程度の事情を聞いているはずだ。だから助かった。けれど、その発言は今は痛い。

「うん、ごめん。でも色々あって、航平しか頼る人がいなくて」

 ぼーっとする頭で私は答える。会社では私たちの関係を隠しているのだと話すと、航平は一瞬だけこちらに怪訝な顔を向けた。

「なんだよ、それ。晶子、お前そんなので結婚して大丈夫なのか?」

 朋子にも同じようなことをことを聞かれたな、と思い出しながら、このときの私は上手く答えられなかった。

「どうなんだろうね」

 いつもなら朋子に答えたように無難に返せたのに。今はお酒が入っているせいか、この前の直人の話をこっそり聞いてしまったせいか、相手が事情を知っている航平だからか。

 私の返答はどこか投げやりだった。航平はそれ以上はなにも言わず、マンションにつくまで会話らしい会話はほとんどなかった。

 来客用の駐車スペースに車を停めてもらい、私はのろのろとシートベルトをはずす。まだ頭はくらくらするが、気持ち悪さは大分緩和され、そうなると次に睡魔が襲ってくる。
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