次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 掴まれていた腕を無理やり解こうと、私は腕を引いた。すると、いきなりそのまま廊下の壁に背中を押し付けられる。

 なにが起こったのか理解する前に、私の顔に手が添えられて強引に上を向かされた。そして、そのまま直人の唇が重ねられる。

 とっさに顔を離して背けようとしたが、添えられていた手の力が強くて、それが許されずに再び口づけられた。唇から伝わってくる温もりに心が揺す振られる。

 なかなか離してもらえず、次第に息が苦しくなり、酸素を求めようと無意識のうちにうっすらと唇を開ける。その隙間から直人が舌を忍ばせてきて、私は思わず目を見開いた。

「やっ」

 抵抗を試みたが、そんなものはまったく意味がなく、口づけは深いものへとあっさり移行する。応えることも抵抗することもできない。

 なんたって私にとって、こんなキスは初めてだった。時折、漏れる声は自分のものとは思えないもので、この行為自体も相まって羞恥心が一気に煽られる。

 恥ずかしくて、苦しくて、息の仕方が分からない。いつの間にか腰に腕が回されて、より直人と密着させられていた。

 なにかに掴まっていないと不安で、行き場のない手は無意識に彼のシャツを握り締めている。これじゃ、私も求めているみたいだ。でも直人も強引なくせに、触れてくれる手は優しくて、それがまた私をいっそう困惑させる。

 吐息と場違いな水音が静かな廊下に響いて、いやに耳につく。心臓が壊れそうに痛くて煩い。本当に壊れてしまいそうだ。
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