次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 ようやく口づけが終わりを迎えたとき、切なそうな顔をしている直人と目が合った。今までキスしたあとにも、こんな彼の表情は見たことがない。

 私は体の力が抜けたのと、恥ずかしさもあって、直人を軽く突くと、その場にへたりこんだ。

 心臓が早鐘を打ち、頬が熱い。それを押さえるかのように私は俯いて顔を手で覆った。言いたいことがたくさんあるはずなのに、どれも言葉にならない。肩で息をしながら、私は懸命に肺に空気を送り込んだ。

 直人は今、どんな顔をしているんだろうか、なにを考えているんだろうか。私の視界からはなにも窺えない。

 沈黙が刺さるようにして痛かったが、ややあって直人が腰を落としたのが分かった。すぐ近くに直人がいるのを感じるのに、直人はなにも言わない。

 言葉を迷っているのが雰囲気で伝わってくる。そこで、なんて言われるのか急に怖くなり、私は思い切って乱れた息のまま口火を切った。

「わ、たし、心配しなくても、直人と」

 ちゃんと結婚するつもりだ、というのを続ける前に、頭に温もりと重みを感じた。

「悪かった」

 それが、なにに対する謝罪なのかは明確には分からなかったが、少なからず私はショックを受けた。なんでだろう、謝ってほしくなかった。呼吸を整えるためにもう一度大きく息を吸う。

「謝らない、で。私こそ、余計なこと言って、ごめん」

 そして私は、返事を待たずに不恰好に立ち上がると、彼の顔を見ないまま、今度こそ自室に急いだ。
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