次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 そう決意したのはいいものの、直人は私を避けているのか、それとも偶々なのか、とにかく忙しくて、家に帰ってきているのが何時なのか、正確には帰ってきているのかどうかさえ分からないほど、私たちは顔を合わせることがなかった。

 リビングで映画を観て待つこともあったが、終わっても直人が帰ってくる気配がないことも多々ある。そんな調子で今日もなにを観ようか、と迷いながらDVDを選んでリビングにやってきた。

 ソファにちょこんと膝を抱えて座る。明日は仕事が休みだし、直人が帰ってくるまで待とうか。私の方がずっと彼を避けていたのに、今更そんなことをしても鬱陶しがられるだけかもしれない。

 体は大丈夫なんだろうか、仕事が忙しいんだろうか。ほんの少しでもいいから顔を見て言葉を交わしたい。でも、もし私を避けているのだとしたら、私のせいだとしたら。

 顔を埋めていたところで、玄関の解錠音を耳にして、私はソファから勢いよく立ち上がった。リビングから急いでドアのところまで走り、顔を出す。

「おかえり」

 台詞とは裏腹に私の声も顔も切羽詰ってた。こうしてまともに顔を合わせるのはあのとき以来で、なんだか緊張する。けれど、あまりの直人の疲労感漂う顔色に私はそちらの方が気になってしまった。

「忙しいみたいだけど、大丈夫?」

「大丈夫だ」

 直人は疲れた顔で、素っ気なく返した。その声はどこか擦れている。疲れからか、と思ったが無意識に、喉に左手をやっているのを私は見逃さなかった。

「喉、痛いの?」

「いや」

 そのまま自室に向かう直人のあとを私は追った。

「まだ、作業が残ってる」

「少し休んだ方がいいんじゃない? ここのところずっと忙しそうだし、無理しても」

「ほっといてくれ」

 突き放すように言うと、直人は自室のドアを閉めた。これ以上は私が立ち入れない領域だ。ドアの前で私はしばらく呆然と立ち尽くす。

 とりつく島もないとはこのことだ。ああ、もう。やりきれない思いを抱えながら、私は踵を返した。
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