次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 部屋に持っていくと、直人は先ほどの机ではなく、ベッドに腰をかけて書類を見ていた。躊躇いながらもそこまで歩み寄り、お代わりを渡すと、今度は小さくお礼を告げられる。

「なんの映画を観ていたんだ?」

 その質問に私は手短に答えた。私を気遣ってか、話題を振ってくれた直人とぎこちなくではあるが、観ていた映画について、いつもどおりの会話を交わすことができた。そのことに心の中で胸を撫で下ろす。

「仕事はいいの?」

「今日はもういい。晶子の言うとおり、少し体調が悪いみたいだ」

 そう言ってサイドテーブルに見ていた書類とマグカップを直人は置いた。それが合図のように私はこの場を立ち去らねば、という気になる。

「じゃぁ、ちゃんと休んでね。私はもうしばらく起きてるから、もしお代わりがいるならいつでも」

「晶子」

 名前を呼ばれて、途中で言葉が遮られる。

「さっきは悪かった。わざわざ心配してくれたのに」

 ベッドに座っている直人のまっすぐな視線を受けて、私は少したじろいだ。

「いいよ。でも、大きなお世話かもしれないけど、調子が悪いときぐらい頼ってよ。せっかく、一緒に住んでいるんだし。……直人はもっと甘えるべきだよ」

「そういうのは苦手なんだ」

 苦笑しながら言うと、直人はきっぱりと告げた。

「体調崩しても、困らせるだけだったからな。正直、弱い自分をさらけ出すのとか、甘え方とかよく分からない」

 なんとなく、体調が悪いからなのか、直人の声には覇気がなかった。子どもの頃は熱も出しやすいし、体調も崩しやすい。そうなったとき、両親がいない直人はどんな風に過ごしていたんだろうか。
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