イジワル御曹司に愛されています
しようと思ったことがないから、わからない。でもほかの人はよく、社外の人と会うときに外のお店を使っている気もするので、かまわないと思う。


「今度聞いてみる」

「金は俺が持つから」

「えっ、そんな、自分のぶんくらい自分で払うよ」


慌てて手を振ると、都筑くんが無表情に言う。


「経費だよ」


ですね、そりゃそうだ。

いや、私だって先生方との食事や飲み会で、交際費を使うことは日常的にある。ただちょっと、なんていうか、わからなくなっただけだ。


──けっこう、会えて嬉しい。


あの言葉の真意とか、高校時代からの変貌の理由とか、そもそも当時、なにを思って私に声をかけていたのかとか。

彼がくれたココアは、甘くて温かくて、ほっとする。まるで彼にもそういう一面があることを、教えているみたいに。


「明日、現地集合で大丈夫?」

「うん、松原さんと、外出先から直接行く」


都筑くんの提案で、登壇してくれることになった先生方を招いての懇親会があるのだ。

先生方とのこうしたおつきあいは、私の仕事のうちでもある。誘われれば休日にゴルフのお供をしたりもする。

けれど今回は、展示会の主催者である都筑くんが仕切りを受け持ってくれた。


「お店の手配とか、任せきりでごめんね」

「気にしなくていいよ。それよりお前、酒飲めんの?」

「飲めるよ!」


疑わしそうな視線を向けながらも、都筑くんは黙ってコーヒーを飲むだけ。ふと腕時計を確かめると、鞄と上着を手に取って席を立った。


「その計画書ができあがったら連絡して。つきあいのある印刷所ある?」

「学会関係でお願いしたことのあるところが、確か…」

「このサイズのパネルの印刷ができるか確認しておいたほうがいい。無理って言われたら、俺の知ってるとこ紹介するから」

「うん、ありがとう」

「あ、見送りいい」
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