イジワル御曹司に愛されています
「都筑さん、細やかにうちの面倒をみてくれているそうで、どうもありがとう」


先生方と同じ側に座っている松原さんが、お酌をしながら感謝を伝える。


「とんでもない。できる限りお手伝いさせていただくのも、主催の仕事です」

「こちらも、ある程度準備を進めたら社内できちんとチームを作ろうと思っています。それまでは千野にがんばらせてしまうことになるので、サポートしてやってください」

「喜んで」


都筑くんは、にこりと感じのいい笑みを返した。

その顔がふっとこちらを見て、一気に不審そうな表情になる。


「お前、もう顔赤いんだけど」

「すぐこうなっちゃうだけで、まだ大丈夫だよ」

「大丈夫大丈夫って言う奴が、一番危ないんだよ」


場も温まってきたというのに、都筑くんはきちんとした正座を崩さずに、先生方の飲み物が切れないようさりげなく目を配っている。

控えめながらも仕切るところは仕切る的確な振る舞いは、こういう場にとても慣れているのを感じさせる。

私は彼のグラスを指さした。


「そう言う自分は全然飲んでないじゃない、人のことばっかり」

「お、酒の力借りて口ごたえか?」

「口ごたえって」


ついむっとした私をおかしそうに笑うと、私のお取り皿を取って、遠くにあった素揚げのポテトを載せてくれる。

おいしそうだなとちらちら気にしていたのが、ばれていたのか。


「まあこれでも食ってろ」

「…ありがとう」

「今でも体重気にしてんの?」


私はちょうど、受け取ったお取り皿をテーブルに置こうとしていたところで、手をすべらせて派手に周りの食器を巻き添えにしてしまった。


「すみません、お騒がせしました」


何事かという視線を浴びて、慌てて笑顔を作って謝罪する。ああよかった、なにもこぼさなくて。

バーカ、と小さな声。

ぐっ…。


「ふたりって、もとからの知り合いかなにか?」


やりとりを見ていたのか、松原さんが不思議そうに言った。

都筑くんはちらっと私に視線を投げてから、「あれ、ご存じじゃなかったんですか」と向こうのグラスにビールを注ぐ。
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