イジワル御曹司に愛されています
クリスマスの影響で、出荷が12月に多いだけだ。それに便乗して苺フレーバーの菓子類も冬に出回るようになり、冬のスイーツの代名詞のようになったが。
「そのくらい知ってます。苺大福は母の日の定番だもん」
「そうだったっけ?」
苺大福?
ふくれる千野を適当にあしらって、店員を呼んだ。
いじりたくなるんだよなあ、と内心で嘆息する。気をつけないと、またやりすぎる。もう少し隙を見せずにいてくれると助かるのだけれど。
仕事を始めた当初は、以前のように名央への警戒心むき出しで、いつなにを言われるのかと怯えているのが一目瞭然だった千野は、案件が進むごとに、態度を和らげてくれるようになった。
電話をとる声から緊張感が消え、受付ロビーに現れるときに笑顔を見せるようになり、別れるときには手を振ってくれるようになった。
これ、喜びすぎるとまずいぞ?
名央は時折、そう自分に言い聞かせ、気持ちを平静に保たないとならない。
千野は素直だ。
そして人がいい。
過去を思えば、名央に対して言いたいこともあるだろうに、それをしまっておいてくれる。あくまで仕事上のつきあいということにしてくれている。
協会の人間が千野だとわかったとき、担当を替わってもらうことも頭をよぎった。それをしなかった理由は、ひとつには純粋に協会と仕事をしてみたかったからで、あとは替わるといっても、そんなに余裕のある人間はチームにいないからだ。
そして、千野と過ごしてみたかった。これが一番大きな理由。
なぜそう思ったのか、当時はよくわからなかった。謝りたいのか? それもあるけれど、それだけじゃない。そもそもそんな自己満足、よけいに千野を追い込むだけだろう。
最近になって、ようやく少し気がついた。
千野が、自分のことを忘れてくれているのを、確認したかったのだ。名央が当時残した傷が、今でも千野を苦しめていないかどうか、それを確かめたかった。
結局は、罪悪感を軽くしたいだけ。
自分は勝手だ。
「都筑くん」
「ん?」
「この部分、どういう意味? うち、小間外にマージンなんてないんだけど…」
「そのくらい知ってます。苺大福は母の日の定番だもん」
「そうだったっけ?」
苺大福?
ふくれる千野を適当にあしらって、店員を呼んだ。
いじりたくなるんだよなあ、と内心で嘆息する。気をつけないと、またやりすぎる。もう少し隙を見せずにいてくれると助かるのだけれど。
仕事を始めた当初は、以前のように名央への警戒心むき出しで、いつなにを言われるのかと怯えているのが一目瞭然だった千野は、案件が進むごとに、態度を和らげてくれるようになった。
電話をとる声から緊張感が消え、受付ロビーに現れるときに笑顔を見せるようになり、別れるときには手を振ってくれるようになった。
これ、喜びすぎるとまずいぞ?
名央は時折、そう自分に言い聞かせ、気持ちを平静に保たないとならない。
千野は素直だ。
そして人がいい。
過去を思えば、名央に対して言いたいこともあるだろうに、それをしまっておいてくれる。あくまで仕事上のつきあいということにしてくれている。
協会の人間が千野だとわかったとき、担当を替わってもらうことも頭をよぎった。それをしなかった理由は、ひとつには純粋に協会と仕事をしてみたかったからで、あとは替わるといっても、そんなに余裕のある人間はチームにいないからだ。
そして、千野と過ごしてみたかった。これが一番大きな理由。
なぜそう思ったのか、当時はよくわからなかった。謝りたいのか? それもあるけれど、それだけじゃない。そもそもそんな自己満足、よけいに千野を追い込むだけだろう。
最近になって、ようやく少し気がついた。
千野が、自分のことを忘れてくれているのを、確認したかったのだ。名央が当時残した傷が、今でも千野を苦しめていないかどうか、それを確かめたかった。
結局は、罪悪感を軽くしたいだけ。
自分は勝手だ。
「都筑くん」
「ん?」
「この部分、どういう意味? うち、小間外にマージンなんてないんだけど…」