イジワル御曹司に愛されています
腹が立つのは、この木村という女を紹介してきたことにだ。

なんで? 俺が喜ぶわけないことくらい、わかっただろ。男も含め、高校時代の誰とも復縁なんて望んでいないからこそ行かなかったんだ、それくらいわかれよ。


(そりゃ、千野は別だけどさ…)


頭にきた後は、悲しくなった。少し浮かれた様子の、楽しそうな千野の声。高校生活に名央さえいなければ、そんなふうに一点の曇りもなく明るく過ごせたのだと思い知らされた。

そして千野にとって名央は、頼まれれば女を紹介するくらいなんでもない相手。

くそ、と毒づいて、足元までガラス張りになった窓から夜景を見下ろす。

千野が行くと言っていたレストランの入ったビルが見える。

今ごろ、うまそうに食ってんだろうな。


「──ん、今なんて言った?」

「え、なに、アラフォーのくせにミニスカ?」

「そんな話どうでもいーよ、会社自体の話」

「元国営だけあって、お堅くて?」

「お前、どこに勤めてんの?」


木村が口にしたのは、元国営の運輸会社のグループ企業の名前だった。

おいおい、マジかよ、早く言えよ。


「あのさ、広告宣伝とか広報とか、そのへんやってる人知らないか、紹介してほしいんだけど」

「えっ、なに、合コン?」


内ポケットから名刺入れを取り出した名央の冷ややかな目つきで、勘違いに気づいたらしい。木村が小さく肩をすくめる。


「直接は知らないけど、誰かに聞けばたぶんわかる」

「これ、うちの会社のパンフ。2年前にやった物流の展示会を、来年計画してる。興味があればコンタクト取らせてほしいって伝えて」


A4を縦に1/3にしたサイズの冊子の、該当箇所にペンで線を引く。名刺を挟み込んで木村に押しつけた。ここは千野のいる協会と似た状況で、表立った活動を行っていないため、営業をかけづらいと同僚が悩んでいる会社なのだ。


「…わかった」

「頼んだぜ」
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