イジワル御曹司に愛されています
感動してもらえると思ったのに、都筑くんは冷めていた。


「やっぱり男の子は、洗濯の話にはときめきませんか…」

「ときめくときめかないの問題じゃねーだろ」

「じゃあ次、この喫茶店、ランチのパスタがおいしくてお気に入り」


具は日替わりで、味は常にトマト、クリーム、オイルの三種類。何度来ても「全部」と頼みたくなってしまうほど、どれもおいしい。

…と説明する間も、都筑くんの顔つきにまったく興味を持った様子が表れなかったので、私はがっかりした。


「食べ物もあんまりときめかない?」

「その"ときめく"って基準、なんなの?」

「こう、気持ちがキラッて光る感じ」

「単に、お前がよく使う店なら、俺は行かないなって思うだけ」

「あ、そう」


不満を隠しもせず言った私に、彼がちょっと意外そうに眉を上げる。あのね、私だって、打たれ続ければ強くなるんです。

さあ気を取り直して。


「じゃあ、あんまり私がうろうろしないエリアを案内します、こっち」


手招きして、私は大通りを目指した。

深夜でも車が途切れることのない通りを渡った向こうは、古くからある商店街と住宅が並ぶエリアだ。商店街のほうは、早くに閉まってしまうので、平日はまず使うことはない。

片手に鞄、片手をポケットに入れて、あちこちを見落とすまいときょろきょろしている都筑くんは、越してきてから本当に、出歩く機会がなかったんだろう。


「前はどこに住んでたの?」

「この区の反対側」

「どうして引っ越したの?」

「会社が移転したんだよ。うちの会社、妙にフットワーク軽くて、社員が増えるとすぐ、ちょっと広いオフィスに引っ越すんだ」

「会社がいきなり別の場所になっちゃうって、困る人続出しない?」

「いや、移転自体は同じエリア内。ただ新しいビルが、地下鉄の出口から直結でさ。これは絶対その路線を使ったほうが、ストレスないなと思って」


それで引っ越すなんて、都筑くんも相当フットワーク軽い。


「あの、聞いていい?」

「内容による」

「どうして今の会社に入ったの?」

「面白そうだったし、業界最大手ってとこも魅力的だし、努力次第でいくらでも金が稼げそうだったから」
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