イジワル御曹司に愛されています
「は?」

「つ、都筑く、さんが昔、暴力的…じゃなくて、素行不りょ、いやえっと、その、ちょっとやんちゃだったとか、そういうようなことを」


また視線はよろよろと下のほうへ落ちていってしまったので、彼がどんな顔をしているのはわからない。

少しの沈黙の後、「別に誰に言ってくれてもいいけど」と特に腹を立ててもいなそうな声がした。


「え」

「それよりさあ」


一度腕を伸ばす仕草をしてから、手首の時計を見る。気障と言われる身振りも、生まれながらの勝ち組がやると、こんなにさまになるんだからすごい。

我知らず、時計を見下ろす目元を眺めていたらしく、その目がふとこちらに向けられて、私はまたびくっとした。


「そろそろ仕事しない?」




ぴっ、ぴっ、と小気味よく、資料が会議机に並べられていく。


「こっち、課長さんにお渡ししといて。余分もいる?」

「あ、じゃあ部長説明用に、もう1セット」

「わかった」


都筑くんは必要分の書類をまとめると、会社のロゴの入ったクリアファイルに一人分ずつ入れてくれた。


「【ビジョン・トラスト】…」


なんとはなしに読み上げた私に、手帳を開いてペンのお尻をノックしていた彼が、ぴくりと反応する。


「うちの会社がなに?」

「どうしてここに入ったのかなと思って」


国際展示会を主催する会社、ということだった。

テーマは無限にあって、工業製品や資材だったり工芸品だったり、有形だけじゃなく、技術やセキュリティ、ソリューションといった無形のものまで。

国際というからには、海外からも団体や企業を誘致するのだ。それの運営なんて、いったいどんな幅広い仕事なんだろう。

はっと気づくと、机の向こうから都筑くんがこちらを見ていた。

わあ、しまった、ついうっかり考え込んでしまった。


「ごめんなさい、まず仕事だよね、仕事」
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