イジワル御曹司に愛されています
金曜日である今日は、お昼に研究室を訪れたところ会食中で、夕方に出直したら「宴会があるから帰った」とお弟子さんに告げられた。

さすがにそんな場所に押し掛けるわけにいかないため、誘われていたあかねとこうして会うことにしたのだけれど。


「会えないんだよ」

「都筑と?」

「なんで都筑くんが出てくるの」

「会いたそうだから」

「適当なこと言わないでくれる?」

「顔が赤いよ、寿」


ビールジョッキで頬を冷やしながら、「とにかくそれは違う」と言い張る。


「謝りたい学者先生がいるんだけどね、会ってもらえないの」

「なにを謝りたいの?」

「それを聞きたいの」

「ややこしそうな話ねー」


そうなの、とくたびれた気分でお通しをつつく。代わりを務めてくれる先生が決まっているぶん、少しは安心とはいえ、私たちだって考えに考え抜いて最初の人選をしたのだ。

ここまで来たのだから、理想を貫きたい。


「都筑はどうしてるの」

「時間を作って、その先生のところに通ってくれてる」

「や、そうじゃなくて。仲よくやってるの、ってこと」


ビールをひと口飲んでから、聞いてみた。


「私、高校のころ、どんな感じだった?」

「寿? そうだなあ…」


あかねが頬杖をついて、うーんと宙を見つめた。


「今のほうが、落ち着いてるよね」

「そりゃあ、大人になったしね」

「それもあるけど、当時って寿、あんまり自分に自信なかったんじゃない? 気を許せる仲間がいない場所だと、不安そうにしてた印象」


さすが、よく見ているなあ。まさにその通りだ。


「今も別に、自信あるわけじゃないけどね」

「でもさ、受験して就活して、手に入れた仕事も面白くてさ。そういうのって案外、支えになってるもんじゃない? 少なくとも居場所がある感じ、するよね」

「わかる」
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