イジワル御曹司に愛されています
部活も好きだったし友達といるのは楽しかったけれど、学校を自分の場所と感じたことはなかった。

思えば私のその不安を倍にするのが、当時の都筑くんだったのだ。どんな場所でも好きなように生きて、それがスタンダードから外れていようが気にしない。そんな無敵の王様に見えていた。

そんなわけないのにね。


「都筑くん、あのころどんなこと考えてたんだろう」

「結局都筑の話に戻るのね」

「聞こえません」


王様に話しかけられるたび、『お前なんでここにいるの?』と言われている気がしていた。

あのころの、彼を取り巻く環境は、どんなだったんだろう。いつ、どうして今の都筑くんになったんだろう。


* * *


「会えない…!」

「そろそろまずいな」


翌週、研究室の前で偶然会った都筑くんと、大学構内のカフェテリアで先生の戻りを待つこと1時間。30分ほどで戻りますと言われた先生は、まだ戻らない。

完全に避けられている。ここまでしなくてもいいじゃないかと思うものの、先生にしてみたら、それだけ腹に据えかねているということなのだ。

期限は明日。

買ったはいいけれど喉を通らず、冷めきったコーヒーを前にうなだれる。


「代わりの先生に、登壇が濃厚だって連絡しておこうかな…」

「おい」


思わず泣き言を漏らした私の肩を、都筑くんがつかんだ。丸い小さなテーブル越しに、ぐっと力強く私を揺する。


「あきらめるな、備えはあくまで備えであって、逃げ場じゃない。安易にそっちに行こうとするな」


ぽかんとしてしまった私を正気に戻すように、また揺さぶる、熱い手。


「あきらめるな。あきらめるなよ」

「うん…」


はっと彼が胸に手を当てた。着信だ。


「はい…戻られました? ありがとうございます、伺います」
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