スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「あんた、どの程度ピアノ弾ける? 楽譜が初見でも弾けるか?」
「難易度によりますけど、初見でもそこそこ弾けます」
「耳コピは? 例えば、流行曲を伴奏ごと譜面に起こすとか」
「できます。高校時代、合唱コンクールでそういうことやってました」
「そんだけ基礎力があるなら、ジャズも弾ける」
「えっ、ほんとですか?」
「嘘ついて何になるんだよ?」
頼利さんが横顔で笑った。
この人、わたしが今どれだけ衝撃を受けてるか、わかってない。
「だって、わたしは基礎しかできなくて、楽譜とか原曲とかあるから弾けるだけで、アドリブやアレンジが当然のジャズは、わたしみたいな基礎レベルよりはるかに難しいはずで」
「アドリブもアレンジも、全部、基礎の積み重ねだ。基礎がパーフェクトに固まってなけりゃできない。
逆に言えば、基礎が固まってる人間なら、やり方ひとつでアドリブの世界に踏み込める」
「わたしのレベルで足りてるんですか?」
頼利さんはそれに答えず、別の質問をわたしに投げた。
「ジャズが難解で高尚だと、そういうイメージを持ってるっつってたろ? そいつは、あの男に植え付けられたイメージか?」
「はい。主に、エンパヰヤのジャズピアノを聴きながら。今のはこういう技巧だって解説付きで」