スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「あなた日本人でしょ、ってな。そこから人脈がつながり出して、ジョンにドラムを習ったり、リーダーんちのクリスマスに呼ばれたり、
バンド仲間に出会ってライヴにも出られるようになって、ミュージシャンと名乗れるようになって、気付いたら28の冬だった」
ニューヨークで暮らすようになって、10年が過ぎていた。
頼利さんのもとに、唐突に実家から連絡が入った。
倒産した、と。
ただ倒産したわけじゃなかった。
大手の運送会社とは競争できないから、いつかは事業を畳むことになるだろうと、上條家は腹をくくっていたらしい。
だから、倒産自体が大きなダメージにはならないように、準備はできていた。
問題は、頼利さんのおとうさんが、ある社員の借金の保証人になっていたことだった。
要するに、借金の肩代わりをしなければならなかった。
その社員が株で失敗したことによるマイナス額は、上條家が手元の財産をすべて売り払っても埋められなかった。
「ひでぇことにさ、その社員ってのが、おれの義理の兄貴だった。つまり、姉貴の旦那で、らみの親父だ。
しかも、おれが連絡を受けた時点で、すでに行方をくらましてやがった」
「最低ですね。らみちゃんは、そのときは?」
「3つかそこらだ。らみがいくら記憶力がいいといっても、さすがにあんまり覚えてねぇはずだ」
「そうですか……それで、家の事情のために、上條さんは日本へ?」