スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
頼利さんはうなずいた。
自嘲の笑みが歪められる。
唇を噛む沈黙と、それに続いたのは深いため息だった。
「おれは何をグズグズしてたんだろうって思った。おれが十分に稼げるミュージシャンになってたら、いくらでも金を送ってやれたのに、現実はそうじゃなかった。
物価の高いニューヨークで、自分ひとり生きていくのがやっとだった」
いつしかうつむいていた頼利さんは、腕にギュッと力を込めている。
筋肉の張った前腕に、つっと汗が流れた。
少し長めの茶髪に宿った汗も、ぽつんと床に落ちる。
涙の代わりのように見えた。
頼利さんは、低くうなるような声を吐き出した。
「ジャズドラマーになりたいっていうおれの身勝手を、家族はずっと応援してくれてた。なのに、おれは何も返さねぇなんてこと、やっぱりできなかった。
全部捨てて、日本に戻ってきた。バンド仲間も、住み慣れた町も、恋人も、将来の可能性も、全部」
「上條さん……」
「ジョンがよぼよぼのじいさんになったら、おれがWJOのドラマーを継ぐんだと、本気で言ってたんだ。
おれはWJOを世界一のバンドだと思ってる。あのメンバーの中でやっていくのが、おれの目標だった。絶対に譲れない目標だったはずなのに」