別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
上手く誤魔化してこの場を取り繕うとしているのが見え見えで、私は奏人をキツく睨んだ。

奏人は言葉で宥めるのは無理と判断したのか、腰掛けていたベッドから立ち上がり、そのまま素早く私の所まで来た。

慌てて立ち上がろうとするより早く、奏人に腕を捕まれる。
奏人の強い力で、私の身体はフワリと浮くように立ち上がり、そのまま彼と至近距離で向き合う事になってしまった。

今日の奏人はイケメンバージョンだから、至近距離で見つめ合うと戸惑ってしまう。

私は慌てて目を逸らして文句を言った。

「どうしてこんなに近くに来るの? 話し辛いから離れてよ」

口から出た言葉は情け無い事に、明らかに勢いを失っていた。

でも、仕方ないと思う。

すっかり雰囲気を変え、男の魅力をアップさせた奏人に、こんなに近くで見つめられているんだから。

これじゃあ、話し合いにならないじゃない!

さっきの会議室でもそうだったし、奏人は絶対わざとやっている。

なんて卑怯なんだろう。

でも、一番の問題は、それに逆らえない私自身なんだけど。

すっかり大人しくなった私に、奏人が囁く様に言った。

「確かに初めは部長の言う事を鵜呑みにして理沙を警戒していた。でも理沙の事を知る内にそれは単なる噂だって気が付いた」

「……それならどうして気が付いた時に本当の事を言ってくれなかったの?」

「言えなくなっていたんだ。本当の事を言ったら理沙に軽蔑されて嫌われて二度と会えなくなるかもしれないと思った。だからもっと距離を縮めて信頼関係を築いてから告白しようとした」

「信頼関係? 自分が騙してるのに築ける訳が無いでしょ?」
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