別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
奏人は何を言ってるんだろう。
呆れて冷たい声を出す私に、奏人は僅かに躊躇ってから、手を伸ばして来た。

ひんやりした手が頬に触れる。

「なんで触るの?」

驚いて思わず奏人と目を合わせてしまったけれど、その瞬間に後悔した。

奏人が切なそうな目で私を見つめている。

あの酷いプロポーズの日までは大好きだった人なのだ。
しかも外見は特上のイケメンに変わっている。

そんな相手に請われる様に見つめられたら、心が揺れてしまうのを止められない。

「……離してよ。これじゃあ話し辛い」

流されてしまいそうな自分になんとか逆らい、私は頼りない声を出す。

全く迫力の無いそれは、妙に強引になってしまった奏人に通用する訳も無く、離すどころか会議室での様に抱きしめられてしまった。

固くて広い胸に引き寄せられて、身動きが取れなくなってしまう。

奏人ってこんなに逞しかったんだ。

何度も抱き合ったのに、強引に抱かれた事なんて無かったから知らなかった。

奏人はいつも私を優しくフワリと抱き締めてくれていたから。

「図書館で出会った時から俺は酷い姿だっただろう? 仕事も人と会う約束も無い時は面倒だしいつもあんな感じだったんだ。嘘じゃないからな。あの時理沙と会うなんて予想していなかったんだから、理沙が言う“緩い格好”は本当にいつもの生活習慣だったんだよ」

「……確かに私と図書館で会う事は予想出来ないよね」

「それに、理沙が気の抜いただらしない姿の俺に興味を持つ事も予想していなかったから驚いた」
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