別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「私はだらしない姿に興味を持った訳じゃないからね。ただ奏人が凄く優しく笑うから……」

あの時の私は、優しさに飢えていたのだと思う。
でも、当時の私の事情や感情を奏人が知るわけも無いから、かなり不審に感じたのだろう。

「理沙が近付いて来た時、部長の玉の輿を狙っているって言葉を思い出したんだ。それで理沙が俺の立場を知っているんじゃないかって考え、警戒していたんだ」

「そんなに警戒するなら、初めから私の誘いなんて無視すれば良かったでしょ? 断る事なんて簡単に出来たんだから!」

私の事を強欲な女で面倒だって思ったなら、無視すれば良かったのだ。

確かに初めに声をかけたのは私だけど、自分だって楽しそうな顔をして応じておいて、実は警戒心でいっぱいだったなんて、奏人ってなんて酷い事をするのだろう。

私を馬鹿にしてるとしか思えない。

「断れなかったんだ。あの時の俺は理沙の事を警戒していたけど、その一方で理沙に興味を持っていた。もっと話したいと思ったんだ。今思えば会社で見かけた時から惹かれていたんだと思う」

「何それ! 警戒するとか興味が有るとか、結局自分の事ばかりじゃない。自分が満足する為に私の事は平気で騙すなんて奏人って本当に最低! もう離してよ!」

あまりに勝手な奏人の言い分に、私のイライラは最高潮に達してしまった。

冷静に話し合うなんて決心はとっくに忘れ、精一杯の力を込めて奏人の腕から抜け出した。
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