勘違いも捨てたもんじゃない

敢えてマンションの下、駐車場までしか送らなかった。エレベーターに乗って、浩雅が出迎える部屋にまで行きたくはない。

真希、…ごめん。俺は上手く演じられていただろうか。
俺は、誕生日の翌日、真希の部屋から帰って、浩雅に会った。特に用のない日だ。真希が襲われた事に浩雅が関わっているだろうと思ったからだ。どう考えても、捕らわれて中断されるなんてこと、あり得ない。誰かが助けに入らなければ、自由を奪われている状態から逃げるなんてこと無理だからだ。
仕事でもなく浩雅の部屋に俺から訪ねるということ。それだけで真希のことだろうと想像は簡単についたはずだ。
俺がその事を話すということは真希から聞く以外知り得ない事。だから、真希の事なんだけどと話し始めて、どうなったかまでを浩雅から聞き出した。浩雅がどの程度痛めつけたのか…全てを知っている振りで…。

セクハラ上司にされた事の全て。その後、真希は浩雅の部屋に運ばれた事。どうしたのか迄聞いた。
…はぁ……恐くない訳が無い。俺には想像するしかできないのだが。大丈夫な訳が無い…。恐怖を取り除き、それを大丈夫にしたのは浩雅なんだと思った。恐い目に遭った日に一人でなんて居られない。怪我をするほど痛めつけていたとしても警察に突き出した訳じゃない。100パーセントまたがない訳じゃない。浩雅が痛めつけたことで逆恨みして、それがまた真希に向かないとは言いきれない。俺には連絡して来なかった。朝まで一緒に居たのは俺じゃない。抱きしめてずっと傍に居たのは浩雅だ。介抱された流れだとしても…真希はそれで良かったんだ。俺じゃ無くて良かった。俺に連絡して来て…迎えに来て欲しいと、そうはならなかった。浩雅がそうはさせないとしようとしても、そういう態度に出た真希を引き留めたりはしない。それが真希の本心だと、その態度で気持ちははっきりするからだ。……そういうことだ。

メニューの試食は本当は俺も一緒にと言われていた、真希と二人でと。真希がどうするのか、行かないと言うのか、判断を待った。真希は行くと決めたようだ。だから俺に迎えに行けとなった。真希は俺が行くからと思い決めたんだろうけど、まだ俺は決めていなかった。
…止めた。行かないとは浩雅に言っていない。ドタキャンだ。だから真希が一人で上がって行ったら、その意味、浩雅には解るはずだ。
……気がついてないだけだからな、真希。真希…、誕生日だからと、…詫びだと、…しなくちゃいけないと義務でするもんじゃない…。真希は約束を果たそうとしてくれた。自分の心はよく解らないままで。もしかしたら、浩雅の見合い相手の事を、誤解通り、俺が彼女だと言っていたら、真希は納得して黙って受け入れたのかも知れない。それが俺の不誠実でも。…そんな気がする。
俺の判断は間違っているかな…。確かに暫く会えなくて真希に会って、顔を見て、俺は恋しいと思った。それは間違いないんだ。だけど真希は俺じゃなかったんだ。寂しい事を寂しいと思わせないでいたのは。辛い時に傍に居たのも俺じゃないんだ。…苦しいよ、…真希。気持ちはよく解らなくても、浩雅と一緒に居て楽しかったはずなんだよな…。否、解らないんじゃなくて、認めてないだけ…なんだよな。

真希、俺はどうしたらいい?…。誰かに彼女の振りを頼もうか?そして紹介しようか?黙ってて悪かったけど彼女だ、って。俺はそんな男だって。そうすればすっぱりと決められるのか?
それとも、真希から言ってくれるか?
もう会わない、って。
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