勘違いも捨てたもんじゃない

会社からの電話。課長のものであろう携帯からの電話。着信を見れば一定時間を空けてかかって来ていた。解ってはいたけど出なかった。連絡もせずに休むなんて、社会人としてもう最低、駄目だ…。辛うじて課長の番号にショートメールを送った。

【病気では無いです。ご迷惑をおかけしてすみません。もうクビですね。課長に昨日送って頂いた事は一切関係しておりませんので安心してください。高鞍】

…どこかに引っ越そう。 この部屋でなければどこだっていい。新しい仕事が見つかるまで少しの間は大丈夫だ。この辺をウロウロして、会いたくないのではなく、姿を見せたくないのだ。

全ては突然降って湧いた、今まで経験のないことばかり。思いもよらない魅力的な人と出会って…モテてるんじゃないの、みたいな、浮ついた心がきっとどこかにあったに違いないんだ…。そんなつもりは自覚してなくて、結果、思わせ振りな、はっきりしない……、中途半端な態度を取っていたからなんだ。

はぁ、荷物の整理をしよう。…部屋探しが先か。日頃からもっと物を減らしていたら良かった。この際、思い切って棄てるのよ…。だいたい、物には罪が無いとか言ってるから、こんなに増えるのよ。段ボールだって、次の引っ越しがあったらって、取ってあったし。今回、これは本当に次の為に役に立ってしまった。

構わない物から詰めた。部屋の角に段ボールの箱が増えて行く。多くても一人暮らしの荷物だから片付けていけばこんなものかと思う。要らない物の分別の方が面倒臭いかも知れない。

ピンポン。…ビクッとした。…誰…だろう。

ピンポン。
…。はぁ、課長だ…。

「はい」

「居たか、書類を持って来た」

…あー、やっぱりクビかな。

「開けます、どうぞ」


ピンポン。

「はい。…あ、の。入ってください」

「ふぅ…。大丈夫なのか?入っても」

何に対しての大丈夫だろうか。頭が回らない。

「玄関先では何ですから…」

「では失礼するよ」

廊下からリビングを見て課長は立ち止まった。
組み立てた段ボールや出してある物に言葉を無くしたようだった。

「すみません、散らかってて」

「…どうした…これは何事だ一体。ハハ、引っ越しでもするつもりか?」

「はい」

「そうか…や、何っ?!どういうことなんだ?引っ越しは元々決まっていたことなのか?それって…」

「引っ越します。会社、クビなんですよね?」

「ふぅ。クビ?そんなことにはなってない。勝手に決めつけるな。だから引っ越しなのか?違うよな。休暇届を持って来たんだ。高鞍は消化していない有休がある。病気じゃないのに休むなんて…。何があったか知らないが、暫くこれで休めばいいと思ってな。出しておいた事にするから、印鑑を押してくれ。……クビになったと思ったから、引っ越しをしようとしてる訳では無いよな?違うよな?」

…。

「もう、何がどうでも、別に…どうでもいいんです…」

「はぁ。どうした。何があった。とにかく、印鑑を押しなさい。名前、はい、書いて」

ボールペンを出して渡された。

「会社、辞めたいのか?辞めるにしても、有給、全部、使えるだけ使いなさい。その後でだって辞めたいと思うなら辞められるだろ」

課長…。

「…はい」

どうだって良かったけど、課長にここまで心配かけて…、記入しなきゃ帰ってもらえないし、従う事にした。


「よし、預かる。しかし…、引っ越しは本当にするつもりなのか?」

「はい」

「どうしてだ。なんでこんな事になってるんだ。こんなになるなんて…」

それは…。簡単に、しかも、課長に話せる事では無い。

「よく解らないと言っていた事がはっきりした、…何かしら終わったんだな。そうだな?」

「……はい、そうです」

…そうか…。
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