勘違いも捨てたもんじゃない
暗示、かな。
まんまと課長の暗示にかかったとは思っていない。だけど、お腹が満たされ部屋に帰って来て、部屋の様子を目にした時、何やっているんだろうと思ってしまった。

一緒に暮らしていた部屋でもないのに…。この部屋には武蔵さんを思わせるモノは何もない。…来たことはある。その全てが衝動的…。あるのは今も引き出しの中にある指輪だけ。歯ブラシだって下着だって何一つ置いてないんだから。…年末前の片付けを少し早くしたと思えばいい。うん。そうよ。

【課長、今日は有難うございました。折角なので有休は消化する事にします。休み明け、出勤するかどうかはもう少し考えます。荷物を詰め込むのは止めました。高鞍】

ブー、…。
ん、先ずは、元気という訳ではなかったが、ご飯は食べられたようだから良かった。無断欠勤に引っ越し…。恋が終わったということか。どう見ても納得したすっきりした表情はしていなかった。なら……まだ、後から一山来るだろう。現実が自分でちゃんと理解できた時だ。今は泣くことだってままならない。泣きたくなったら泣きたいだけ泣けばいいんだ。 そうして少しずつ噛み砕いて、納得するしかないだろ。もし…まだ諦める事ができないなら、何度でも会って、話して、気持ちを伝え続けるしかない。そして、いい加減にしてくれ、なんて、きつく嫌われる言葉を言われ、打ちのめされたら、諦められるだろう。…多分。高鞍は、今は放心した抜け殻のようではなかった。それは時間が少しでも経っているからだろう。どちらかと言えば、まだ腑に落ちていない、そんな顔をしていた。解らないの元…きっと、優しい思いやりのある言葉で、相手は離れて行ったのだろう。別れる時に優しいのは罪だ。嫌われるくらいの事、言わなきゃ…。思いが切れない、残るだろ。それではいつまで経っても、いい思い出になんてなりはしない。別にいい思い出にする必要もないが。
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