勘違いも捨てたもんじゃない

結局私は、有給休暇が明けると会社に退職願を出した。また…一身上の都合だ。
課長は俺の会社じゃないから、いつでも帰って来いとは言えないが、何かあったら一人で抱えず連絡して来いと言ってくれた。
それと、職場が同じじゃなくなるのはある意味、ラッキーかもと言った。こんな私でも、まだ好意的で居てくれているようだ。
寿退社でもないのに…次も決めず、三十半ばで仕事を辞めるなんて…。本当、何も考えてない。


休みの間に、前より狭いワンルームの部屋を借りた。このくらいの広さが丁度いい。全てを見渡す事が出来る。ベッドは処分した。シングルでも部屋がベッドで占領されてしまうから。荷物も殆ど処分した。部屋がこれ以上狭くならないように。この広さをキープする為にこれからは小まめに捨てる事が出来るだろう。
仕事は…まだ。こういう事はあまり間を空けてしまうと行動しなくなってしまうものだ。駄目だとは解っている。ズルズルと先に延ばしていたら、本当にずっと無職になってしまう。…何がしたいって夢も希望もない。自分の将来なんて全然考えてない、…あ。…。
…思い出してしまった。『君は将来は考えているのか、見えているのか』。はぁ…ずっとこのままでは止まったままだ。むしろ、後ろ向き。…。


あの公園は今は冬景色…。寒空の中、広葉樹は葉を落とし、細い枝を風に震わせ、常緑樹は逞しく空に伸びた幹に、青々とした葉を枝に密集させているのだろう。寒々と冴え渡った夜空には、スッキリした輪郭の月が昇るのだろう。

はぁ。カフェは、もうとうにオープンしている事だろう。私の携帯から武蔵さんも安住さんの番号も消えた。そんな事をしなくても、連絡が来る事もなかった。
私の胸をドキドキ高鳴らせた数ヶ月は、カサカサと近付く冬の訪れと供に終わってしまった。あれは…夢、そして今は、夢のあと。…全力で恋しなかった罰だ。

私は指輪と白うさぎとワイシャツが棄てられないでいた。……もっと言えば、貰った洋服、口紅、香水、靴、ストッキング…誕生日のロウソク。もっと言えば…これ以外の物はほぼ捨てたという事だ。
私はまだモノが棄てられないでいた。
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