勘違いも捨てたもんじゃない

…ムニエル、さっくりふわっと、…想像を外さなかった。やっぱり美味しい…。

食べ進んで終わる頃、珈琲を入れてくれた。

「アップルパイとティラミス、どっちがいい?あ、どっちもだったな」

もう、…嫌です。きっと両方、最初から出すつもりで聞いたんだ。

アップルパイはほんのり温かくシナモンの香りがした。ティラミスも苦味が凄く好みだった。

調理はいつも安住さんがしているのだろうか。でも、それだと社長業に支障がありそう…。
髪の毛、またシルバーにして大丈夫なんだろうか。 社長さんだから、そこは許されるのだろうか。

…。

「ご馳走様でした、美味しかったです。後片付けは私します。
おいくらでしょうか。それから…私はお嬢さんではありません」

「…フ。君は、今、何をしている?」

「え、…仕事の事ですか?」

「そうだ」

「…無職です」

…。

「そうか」

…。

「支払いは要らない。お嬢さんには私のご飯につき合ってもらっただけだ」

…。

「あ…でも、それでは…」

「要らないものは要らない。さあ、片付けよう」

「すみません、有難うございます」

カチャカチャと洗い、片付けた。


「それでは。ご馳走様でした、すみません、有難うございました」

店を出たところで振り返り建物を見た。
目の奥、脳に焼き付けておこう。
…色々あった場所だった。
公園も見た。春になればまた全体が青く、生き生きとした緑の匂いが風に運ばれるのだろう。


「駅は近いが気をつけて帰りなさい」

「…はい」

はぁ…。…寒い。身体を擦った。

「おやすみなさい」

「…おやすみ。…何故言わない」

え?

「“こんな場所”から一人で駅に帰すなんて、何かあったらどうするんですか、恐いじゃないですかと、何故言わない」

…そんな事。

「約束したのは昼間のランチ、オープンテラスでランチなのに、まだしてないんだから、またですねと、何故言わない」

…。

「タイミング良く、今夜会ったのは何故ですかと、…何故聞かない」

…そんなの、…知らない。

「何故ここに来たんだ」

…それは。

「…店は予定通りオープンしたのか、気になったからと、何故、言ってくれない」

…。
< 141 / 150 >

この作品をシェア

pagetop