勘違いも捨てたもんじゃない

あ…。…安住さん…。

【もう、忘れられちゃったかな?】

…これでは無視し辛いです。疑問形で終わらせるなんて上手ですね。返さないといけない気になります。

【名前が表示されてます】

【今の事では無いんだ。まして、そんな事務的な言葉が欲しかったのではないのだが】

…連絡が欲しいと思っていた人からではなかったから正直、がっかりしています、と事務的に言いましょうか。

【忘れてはいません】

【浅い意味でも考えていてくれた事はあったかな?】

浅い意味?…。あ。おでこにされたキスの事だ…。考えるどころか忘れていた。

【考えていませんでした】

本当だもの。今、言われて思い出したくらいだもの。

【その程度のモノだって、意味だったんだよ?】

え?

【黙って何も言わずにする方が後々何だか悩んでしまうからね。どんな意味でもいいんだ、これはそういう事だったのだよと言えば、妙に納得して、された事なんてあっさり忘れてしまうものだ。場所が場所だけに、まあ、いいかってね】

それを狙ってしたの?それにしても、…結局おでこだからと、挨拶くらいに許してしまいがちになる。これって安住さん的には、ちょっと、してやったりなのかな。私の考えは思う壺って事?…。

【今から時間はあるかな?】

え?もう、こんな夜更けって解ってますよね?

【実はもう下で待ってるんだ】

え?そんな事、何も考え無かった。


カーテンを開け、施錠を外しベランダに出た。
…、あ。暗闇の中、…ほとんど黒い。だけど何となく手を上げているのは解る。あ、こっちは明るいんだった。だから認識されたんだ。

「あ、安住さん」

二階からだから充分聞こえたと思う。慌てて口を押さえた。
ブー、…。

【待ってる】

あ、…え?着信したのを確認して同時に車に乗り込んでいる。あ…、なんて…。人の心を揺らすのが上手いんだろう。どういうつもりで…。どういうつもりも…、こういうことなんだ。
待ってるって、何のため?目的は?誘うのはご飯にだからっていっても、いくらなんでもこんな時間…ご飯のお誘いとも思えない。まさか、夜中に無性に食べたくなって、ラーメン食べに行こうなんてこと、それは無いだろうし。…じゃあ。
…部屋に戻った。カーテンを思いっきり閉めた。ここはじっと我慢だ。…。ん?我慢?我慢て何?
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