勘違いも捨てたもんじゃない

「何て言うか…」

上手く言い返せず取り敢えず部屋に入って貰った。断って寝室に戻り、長めのカーディガンを着て、ジャケットを丁重に返した。ソファーに置くようだったから、受け取ってハンガーに掛けた。

「私から頼んだ訳じゃないんだ。車の外で煙草を吸って部屋を眺めていたら、帰って来たさっきの住人が親切に、何かお困りなのでは、と声を掛けてくれたんだ。だから…」

珈琲を入れ、置いた。

「…有難う。急いで送ったメールの通りだ。二階に知り合いが居ると言ったら、勝手に色々思い込んでくれたみたいで、駐車するならここを使ってと、まず車の置き場を融通してくれた。それから、入れたからには責任があるからと、ついて来られた」

…それは安住さんだからでしょ?確かに不審者で無いにしても、やってはいけない行為。それもあるから見届けるつもりだったのだろうけど。この紳士が言う知り合いに興味があったんだ。何より…安住さんと少しでも居たかったのだと思う。だから進んで声を掛けた。女性の顔、表情は正直だった。あの女性は来た時、安住さんが小芝居を始めるまではパァッと明るい表情をしていた。

「こんな時間でも、誘うだけでも誘いたかったんだ」

「…え?」

「最近、忙しい。無理矢理にでも会いたければこんな時間しか無くて…迷惑は承知の上でだが…」

…、あ。遅くまで忙しくしてるのかな。だから武蔵さんも…。

「ご飯は?ちゃんと食べられてますか?」

「ん?ああ、その点は秘書が時間も確保してくれてるから食べてるよ」

…武蔵さんよね。

「少しでも早く完成させたくてね。これでも毎日奔走しているんだ」



「カフェの完成をね」

「あ…、あそこのですか?」

「そう…、あそこ、……だ…」

え?え?嘘…寝落ち?隣に座っていたはずがスーッと肩に頭が落ちてきた。…本当に寝たの?

「安住さん?」

…寝てる、の?本当に?嘘みたい。…まるで小さい子供が遊びに夢中でエネルギーを使い果たしたときみたい。はぁ…、余程疲れているのね。……困ったな。

「あず…」

…止めよう。無理矢理起こして帰したところで車の安全な運転なんてできやしない。ふぅ。もう、…こんな状態で何ふらふらしてるんですか。そんな時間があるなら家で休めばいいものを。
…いつまでもこのままなんて。ちゃんと寝かせてあげたくても到底運べはしない。もっと幅があって程よい硬さで、長さもあるソファーなら良かったけど。上体をずらす事くらいならなんとか出来るだろう。
そっと離れて横にさせようとした。……え?腕を掴まれてしまった。

「あ、安住さん?起きてるんですか?」
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