勘違いも捨てたもんじゃない

「このまま、ここで寝かせてくれ」

「え?」

「傍に居てくれ…」

…ズッキン。どうしたんですか。こんな…弱いところ、簡単に私になんて見せないで欲しい。

「…起きたのなら、ベッドを使ってください。とてもお疲れのようですね。動いてしまったから…起こしてしまったようで却って申し訳ないくらいです」

…何言ってるんだろう。これは宜しくない状況なのに。

「安住さんがお使いの寝具に比べたら、快眠とはいかないでしょうが。今シーツを取り替えて来ますから、少しこのまま待っていてください、直ぐですから」

膝立ちしていた状態から安住さんの手を離して戻そうとした。…あ。その手まで、今、掴まれてしまった。

「傍に居てくれるか…」

もう…だから、そんな事。…そんな顔しないでください。

「…解りました。ちょっとの間、離してください、ね?」

少し力が緩んだ。離してくれない事には私はどうする事もできない。

「安住さん?」

まるで子供をあやすような口調になってしまった。やっと拘束から解放された。思わずいい子いい子と頭を撫でたくなってしまった。離した手を少し握り、横にさせながら安住さんの胸に戻した。

「直ぐですから…ね」


パタパタと小走りで寝室に逃げ込んだ。はぁ、もう、何…。ドキドキしたぁ。寝ぼけていたのかどうかは解らない。そんな確認ができる余裕は無い。あんな…、甘えるような、切ない顔…何…。…いけない。はぁ、もうびっくりしたんだから。眠くなったらつい緩むことはあることだ。
チェストからシーツを取り出し、敷いてあるシーツを剥がし、かけ直した。角を被せていた。 そうだ、枕のカバーも…代えて…。

「高鞍真希…」

あ、え?不意に後ろから抱きしめられた。

「え、あ、安住さん?」

「……こんな…絶好のチャンスなのに、…私は、今日の私は…睡魔に負けてしまった…」

あ、力が抜けていってる。

「ちょ…安住さん?待って、危ない。安住さん、待って、ちょっと…」

急いで後ろを向き、抱え、倒れ込むようにして寝かせた。マットが弾んだ。…はぁ、もう…。何だかもう、あちこちで、場所が変わる度に大変…。本当にもうパニックの連続…。歩いてここまで来てくれただけでもマシかぁ。寝る気はあるのね…はぁ…。もう、……面倒臭い人…。ふぅ。

「ウエストコートは脱がせますよ?ワイシャツのボタン少し開けますよ?ベルト、外しますよ?靴下、脱がせますよ?」

私は…意識の薄い患者に話し掛ける看護師か…。

「いや、…」

はい?…嫌ですと?

「…全部、脱がせてくれ」

…話せるくらいなら自分でして。…全部なんて…全裸にしろって事?

「…パンツ以外、全部。…頼む、眠れない…」

…パンツは残すのね。……なら、……なんとか。…はぁ。はいはい。私はお母さんか、って。…ああ、もしかしたら、お手伝いさんかな。…可愛らしいメイドさんがいつもこんな風にしてるとか…?…。

全部脱がせてスーツは掛けておいた。ネクタイはして無かったけど、車の中かも知れない。
はぁ。…、え、あ。また腕を掴まれた。起きてるの?寝てるの?…どっち?今度は何かしら。動いてるんだから…起きてるのよね?
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